連想ゲームの後、夫も息子も捨てました

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連想ゲームの後、夫も息子も捨てました

GoodNovel 完結

息子の誕生日パーティーで、ヒントを聞いてカードに書かれた人物を当てる連想ゲームをすることになった。 7歳の息子、御影佑弦(みかげ ゆづる)がカードを引き、真っ先に口を開く。 「人だよ。すごく年を取ってて、すごく不細工で、すぐ怒る人」 夫の御影新一(みかげ しんいち)は少し考えてから続けた。 「何でも思いどおりにしたがる。一緒にいると息が詰まる」 義母の御影志津子(みかげ しづこ)までうなずく。 「一緒に連れて歩くのも恥ずかしいし、いつも場を白けさせる人ね」 私は頭の中で何度も候補を探した。 「ドラマの悪役?それとも、親戚の中にいるとんでもない人?」 佑弦は吹き出すと、大声で叫んだ。 「ママって本当に鈍いね!みんなが言ってるのはママのことだよ!」 その場にいた全員がどっと笑い、真っ先に私をゲームから外した。 すぐに次のゲームが始まった。 佑弦は新しいカードを引くと、目を輝かせた。 「今度も人だよ。すごくきれいで上品で、パパが大好きな人。僕はこの人にママになってほしい」 その言葉が終わると同時に、全員の視線が隣に座る浅海帆乃香(あさみ ほのか)へ向いた。 彼女は夫の元恋人だ。みんなに見つめられ、たちまち頬を赤らめた。 そこでようやく気づいた。 2枚目のカードには、彼女の名前が書かれていたのだ。 新一と志津子の顔に浮かぶあからさまな好意と共感に満ちた眼差しを見ているうちに、何もかもがひどく馬鹿馬鹿しく思えてきた。 結婚して8年。佑弦は7歳。 それなのに私は今になって初めて、この家には自分の居場所がないのだと思い知らされた。 だったら、もういい。 私を入れる気のない「家族」に、無理やりしがみつく必要などなかった。

チャプター (1)

第1章

息子の誕生日パーティーで、ヒントを聞いてカードに書かれた人物を当てる連想ゲームをすることになった。 7歳の息子、御影佑弦(みかげ ゆづる)がカードを引き、真っ先に口を開く。 「人だよ。すごく年を取ってて、すごく不細工で、すぐ怒る人」 夫の御影新一(みかげ しんいち)は少し考えてから続けた。 「何でも思いどおりにしたがる。一緒にいると息が詰まる」 義母の御影志津子(みかげ しづこ)までうなずく。 「一緒に連れて歩くのも恥ずかしいし、いつも場を白けさせる人ね」 私は頭の中で何度も候補を探した。 「ドラマの悪役?それとも、親戚の中にいるとんでもない人?」 佑弦は吹き出すと、大声で叫んだ。 「ママって本当に鈍いね!みんなが言ってるのはママのことだよ!」 その場にいた全員がどっと笑い、真っ先に私をゲームから外した。 すぐに次のゲームが始まった。 佑弦は新しいカードを引くと、目を輝かせた。 「今度も人だよ。すごくきれいで上品で、パパが大好きな人。僕はこの人にママになってほしい」 その言葉が終わると同時に、全員の視線が隣に座る浅海帆乃香(あさみ ほのか)へ向いた。 彼女は夫の元恋人だ。みんなに見つめられ、たちまち頬を赤らめた。 そこでようやく気づいた。 2枚目のカードには、彼女の名前が書かれていたのだ。 新一と志津子の顔に浮かぶあからさまな好意と共感に満ちた眼差しを見ているうちに、何もかもがひどく馬鹿馬鹿しく思えてきた。 結婚して8年。佑弦は7歳。 それなのに私は今になって初めて、この家には自分の居場所がないのだと思い知らされた。 だったら、もういい。 私を入れる気のない「家族」に、無理やりしがみつく必要などなかった。 第1話 私――琴南紬(ことなみ つむぎ)は、何も言わずに立ち上がった。 涙がこぼれる寸前にリビングを出る。 背後から、佑弦の不満げな声が聞こえた。 「またどうしたの?ママって、いつも楽しい気分を台なしにするよね」 新一は表情ひとつ変えず、平坦な声で答えた。 「さあな。放っておけ。いつものことだろ」 あまりにも軽いそのひと言に、私の足が止まり、背中が強張った。 今日は佑弦の7歳の誕生日だった。 私は朝早くから買い出しに行き、ケーキを作り、家じゅうをパーティー用に飾りつけた。 ところが、新一が佑弦を迎えに行って帰ってきた時、傍らには7年間海外にいた元恋人の帆乃香がいた。 新一は何でもないことのように言った。 「帆乃香は帰ってきたばかりで、こっちに知り合いもほとんどいない。せっかくだから連れてきた」 それから一晩中、家族は彼女を中心に動いた。 帆乃香が風船を怖がれば、新一は私が一日かけて飾ったものを自分の手で外した。 帆乃香が何気なく水を飲みたいと言えば、佑弦は家じゅうを駆け回り、自分の手で彼女のところへ運んだ。 普段は厳しい志津子まで帆乃香の手を取り、目尻を下げて楽しそうに笑っていた。 そのあと、みんなで連想ゲームを始めた。 佑弦が引いたカードに書かれていたのは、私の名前だった。 3人は順番にヒントを出した。 「すぐ怒る」 「何でも思いどおりにしたがる」 「一緒に連れて歩くのも恥ずかしい」 どの言葉も、鋭く胸に突き刺さった。 帆乃香がお題のカードになると、佑弦はうれしそうに褒めちぎった。 「すごくきれいで上品で、パパが大好きな人。僕はこの人にママになってほしい」 一瞬で血の気が引いた。聞き間違いではないかと思った。 新一は私をちらりと見た。 「子供の悪気のない言葉だろ」 志津子も口元をわずかにゆがめた。 「子供相手に本気で腹を立てるんじゃないよ」 帆乃香は膝の上に両手をそろえ、申し訳なさそうに私に微笑みかけた。おとなしく無害な女性を演じる姿は、隙がないほど見事だった。 「紬、誤解しないで。子供の言うことなんだから、本気にしないでね」 声はどこまでも優しい。けれど、その目の奥には、よく見なければ見逃してしまいそうなほど微かな、勝ち誇った光が潜んでいた。その眼差しは、まるで私が本当に、彼らの言うとおり、すぐ腹を立てて何にでも目くじらを立てる悪者であるかのようだった。 さっきの馬鹿げた光景を思い返し、私は指を強く握り込むと、そのまま階段を上った。 リビングから、また大きな笑い声が弾けた。 彼らは何事もなかったようにゲームを続けていた。 次にヒントを出したのは新一だった。 帆乃香を表すヒントを口にする彼の声は、ひどく真剣だった。 第2話 「俺が8年間、ずっと心の中から消せなかった人だ」 志津子も意味ありげな目で帆乃香を見る。 「私が嫁に迎えたいと思うのは、この子だけよ」 胸の奥で、何かが音を立てて崩れ落ちた。 振り返ると、恥じらうように頬を染めた帆乃香が目に入った。 その瞬間、自分の心が完全に死んでしまう音を聞いた気がした。 私はスマホを取り出し、上司にメッセージを送った。 【以前お話しいただいた海外赴任の件、お受けします】 実はその話を持ちかけられたのは、半月ほど前だった。 海外拠点で新しいプロジェクトが始まるものの、チームを一人率いられる人材が足りないという。 会社は長いこと適任者を探していたが、なかなか見つからなかった。 最後には本部長が直々に私を呼び、こう言ったのだ。 「琴南、このポジションを任せられるのは君しかいない。 任期は5年。役職は2段階上がり、給与は今の3倍になる」 それでも私は断った。 佑弦が小学校に入ったばかりだったから。 そして新一から、女が仕事にそこまでのめり込む必要はない、家のことをする人間も必要だと言われたからだ。 あの時の私は、その言葉を信じた。 この家には私が必要なのだと思っていた。 けれど今夜、ようやく分かった。 彼らが必要としていたのは、私ではない。 何を言われても逆らわず、家族の世話をしてくれる都合のいい人間が欲しかっただけなのだ。 上司からはすぐに返信が届いた。 【本当に決めたのか?行けば5年は戻れないぞ。 息子はまだ小学校に上がったばかりだろう。置いていけるのか? それに、ご主人は同意しているのか?】 私は自嘲気味に口元をゆがめ、文字を打った。 【置いていけます。あの人たちは、私がいなくなることを望んでいますから】 数分後、航空券の手配が完了したという通知が届いた。 出発は3日後だった。 私はその画面を、30分ものあいだぼんやりと見つめていた。 階下から新一が呼ぶ。 「紬、ケーキを切るぞ」 佑弦も大声を上げた。 「ママ、早く来てよ。帆乃香お姉ちゃんを待たせないで」 私は数秒黙ったまま動かなかった。 下へ戻る気にはなれない。 だが、ふと考え直した。 すべてを断ち切るために、最後のひと押しが必要なのかもしれない。 あの人たちが、別の女のためならどこまで私を傷つけられるのか。この目で確かめておこう。 私は踵を返し、階段を下りた。 ダイニングテーブルの前には、新一と佑弦と志津子が横一列に並んでいた。 私がテーブルに近づくと、佑弦はすぐに眉をひそめた。 「ママ、ちょっとどいて。帆乃香お姉ちゃんの場所がなくなるでしょ」 握りしめた拳をほどかないまま、私は横へ一歩ずれた。 志津子は不満げに舌を鳴らす。 「本当に気が利かないね。あんたは向かいに立ちな」 そして、帆乃香の手を親しげに引いた。 「帆乃香、真ん中においで。みんなで家族写真を撮りましょう」 新一は一部始終を見ていたが、止めようとはしなかった。 佑弦は当然のように私へ命じた。 「ママ、おばあちゃんの話、聞こえたでしょ?僕たちの写真を撮って。 帆乃香お姉ちゃんをきれいに撮ってね」 以前の私なら、これほど露骨に差をつけられれば、すぐに涙ぐんで、「どうして私だけ」と問い詰めていただろう。 けれど今は、そこにいる一人ひとりの表情を、ただ深く胸に刻んだ。 スマホを取り出し、カメラを彼らに向ける。 画面の中で、佑弦は片手で新一と手をつなぎ、もう片方の手で帆乃香の手を握っていた。目を細め、心からうれしそうに笑っている。 志津子は帆乃香の反対側の腕に自分の腕を絡め、慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。まるで本当の母娘のようだ。 その光景を見て、ふと去年のことを思い出した。 新一と私が、遅れて結婚式を挙げた時のことだ。 最後に行ったのは、やはり記念撮影だった。 佑弦は私と手をつなぐのを嫌がり、新一に抱き上げられた。 志津子は決められていた立ち位置からわざわざ私の前を回り、新一の隣へ移った。 私は確かにウェディングドレスを着ていた。 それなのに結婚式の写真では、たった一人だけ輪から外された、どうでもいい脇役にしか見えなかった。 その晩、私はバルコニーで長いあいだ泣いた。 そして自分に何度も言い聞かせた。 「たかが写真一枚じゃない。考えすぎないで。私たちは家族なんだから」と。 けれど、今なら分かる。 第3話 「家族」という言葉は、誰にでも当てはまるものではない。 去年も今も、新一たち3人が家族だと思っていた相手は、私ではなかったのだ。 そして今、スマホを手に写真を撮っている私も、3日後には彼らと何の関係もなくなる。 …… 「撮れたよ」 私はスマホを下ろした。 佑弦が真っ先に列から飛び出してくる。 「見せて、見せて!帆乃香お姉ちゃんをきれいに撮ってなかったら、僕、怒るからね」 志津子は疑わしそうに私を見た。 「もう終わったの?まさか、いい加減に撮ったんじゃないでしょうね」 「見せてみろ」 新一は写真を開き、わずかに眉を上げた。 「悪くない。 お前もようやく少しは成長したな。くだらない嫉妬をしなくなった」 褒めてやったとでも言いたげな目を向けられ、私は胸の奥からせり上がる吐き気をこらえるために視線をそらした。 「写真も撮れたし、次はみんなで願い事をしましょう」 帆乃香は柔らかな声でそう言うと、あまりにも自然に私へ指図した。 「紬、そこにいるなら、悪いけど明かりを消してきてくれる?」 志津子もうなずく。 「そうね。紬、行ってちょうだい」 私は何も言わず、照明を消した。 リビングが暗闇に沈む。 誕生日ケーキのろうそくだけが、かすかな光を揺らしていた。 佑弦は目を閉じて願い事をする。 「一つ目のお願いは、帆乃香お姉ちゃんがずっとここにいて、どこにも行きませんように」 帆乃香は目を潤ませ、片手で口元を覆った。 新一は満足そうに佑弦の髪を撫でる。 「佑弦も本当にいい子に育ったな」 「二つ目のお願いは、ママがもうあんなにうるさくしませんように。パパをあんまり怒らせませんように」 言葉が途切れた瞬間、リビングの空気まで凍りついたようだった。 帆乃香は心配そうな顔を作って私を振り返ったが、その口元はわずかに上がっていた。 新一は後ろめたそうに私を見てから、慌てて佑弦を叱りつけた。 「でたらめを言うな」 佑弦は不満そうに口を尖らせる。 「でたらめじゃないよ。この前、僕たちが帆乃香お姉ちゃんと映画を見た時、パパもそう言ってたじゃないか」 「佑弦!」 志津子が鋭く名前を呼ぶと、佑弦は口をつぐんだ。 胸の奥が一瞬、ひやりとした。 帆乃香は、新一が言ったように今日帰ってきたわけではなかった。 彼らは前から会っていたのだ。家族の全員が知っていながら、私一人にだけ隠していたのだ。 口元が引きつり、笑いがこみ上げそうになった。それなのに手は震えていた。 私は新一を問い詰めた。 「ほかにも私に隠していることがあるの?」 新一は唇を引き結び、気まずそうに目をそらした。 「何もない。ただの些細なことだ……」 「何が些細なことなの?」 私は食い下がった。 帆乃香が口を挟む。 「紬、誤解しないで……」 私はすぐに遮った。 「私は夫に聞いているの。あなたには聞いていない」 「紬、いい加減にしなさい!」 志津子が突然声を荒らげ、帆乃香をかばうように前へ出た。 「帆乃香は新一が招いたお客さんよ。2人には何もないのに、あんたは人を見下すのもいい加減にしなさい!」 佑弦が勢いよく体当たりしてきた。 「悪いママ!帆乃香お姉ちゃんをいじめるな!」 私はよろめき、背中をテーブルの縁に強くぶつけた。鋭い痛みに息をのむ。 新一が手を伸ばしかけたが、帆乃香がそっとその袖をつかんだ。 彼の手は宙に浮いたまま止まり、そこから先へは少しも伸びてこなかった。 志津子は佑弦を抱き寄せ、非難に満ちた目を私へ向ける。 「紬、いつからそんなに聞き分けのない人になったの?」 佑弦は、まるで親の仇でも見るかのように私をにらみつけた。 「おばあちゃん、もうママなんか放っておこうよ。外で誕生日のお祝いをしよう。僕、ママなんて大嫌い!」 息が詰まり、手のひらに血が滲むほど深く爪を立てた。それでも、痛みはまったく感じなかった。 志津子は佑弦を見下ろし、あやすように言う。 「そうね、そうね。あんな人は放っておきましょう。おばあちゃんと外へ美味しいケーキを食べに行こうね」 志津子は佑弦の肩を抱き寄せるようにして玄関へ向かった。 帆乃香も弾むような足取りであとに続いた。 第4話 「新一、早く行こう」 帆乃香の声だ。ようやく我に返ったように、新一は複雑な表情で私を一度見たが、結局、私には何も言わなかった。 「今行く」 邸宅の玄関扉が、大きな音を立てて閉まった。 その音で、痛みに沈んでいた意識がようやく現実へ戻った。 スマホを手に取り、上司へ電話をかける。 「3日も待てません。今夜、出発します」 私の声がかすれていることに気づいたのだろう。 上司は数秒黙っただけで、すぐに承諾してくれた。 「分かった。荷物をまとめておけ。迎えの車を手配する」 電話を切ると、私はすぐに荷造りを始めた。 持っていける服は、すべてスーツケースへ詰めた。 持っていけないものは袋にまとめ、明日まとめて捨てることにした。 これまで佑弦に買い与えてきたおもちゃや本も、残らず引っ張り出した。 それらも同じように、ゴミ袋へ放り込んでいく。 一番奥を片づけていると、指先が金属製の箱に触れた。 中には、新一と結婚してからの8年間に集めた思い出の品が収められていた。 初めて妊娠した時の検査記録。 佑弦が生まれた時に残した、小さな足形のスタンプ。 新一が初めて買ってくれたネックレス。 そして、すでに色あせてしまった一枚の写真。 写真の中で、私は生まれたばかりの佑弦を抱き、新一の肩にもたれて幸せそうに微笑んでいた。 新一はベッドのそばに腰掛け、相変わらずそっけない顔をしている。 けれどその口元にも、本人さえ気づいていないような喜びが、かすかに浮かんでいた。 あの日、私は一晩中、陣痛の激しい苦しみに耐え抜いた。 新一も一晩中、ベッドのそばにいてくれた。 だからあの頃の私は、長い苦労がようやく報われたのだと本気で思っていた。 自分には幸せな家庭があるのだと信じていた。 今になって思えば、あまりにも考えが甘かった。 私は箱の中身をすべて外へ出した。 妊娠検査の記録を細かく破り、写真にはさみを入れた。 自分だけが写っている部分は手元に残した。 新一と佑弦が写っている側は、ゴミ袋へ投げ捨てた。 スマホが何度か鳴った。 志津子が帆乃香を家族用のメッセージグループへ招待したのだ。 【これからは帆乃香も私たちの家族よ。 紬、帆乃香は気が弱いんだから、いじめるんじゃないよ】 続いて、新一からもメッセージが届いた。 【今夜の話はこれで終わりだ。 A市の海辺のリゾートへ行く航空券を4人分取った。俺と母さんと佑弦、それに帆乃香で、気分転換をしてくる。 紬、留守のあいだは家のことを頼む。帰ったら土産を買ってくる】 佑弦はボイスメッセージで歓声を上げた。 「やった!ママがいないなんて最高!パパ、最高!」 帆乃香は口元を押さえて笑う絵文字を送ってきた。 グループの中は、まるで本物の家族だけが集まったような和やかさに包まれていた。 私は長いこと画面を見つめたあと、文字を打った。 【佑弦、ママはいらないって、本当にそう思っているの?】 グループが数秒間、静まり返った。 やがて志津子から、怒鳴り声の入ったボイスメッセージが届いた。 「紬、あんた正気なの?子供を脅すなんて!『一緒に連れて歩くのも恥ずかしい』って言われるのも無理ないわね!」 すかさず、新一からも非難のメッセージが届く。 【紬、やりすぎだ。 子供に当たるな】 間を置かず、帆乃香からもボイスメッセージが届く。優しい声には、かすかな非難と被害者めいた響きが混じっていた。 「紬、佑弦はまだ小さいのよ。腹が立つなら私に当たればいいじゃない。あんな聞き方をしないで……」 私はそのメッセージを見つめたまま、画面の上に指を浮かせていた。 どうしても文字が打てなかった。 しばらくして、佑弦から動画が送られてきた。 画面の中で、佑弦は帆乃香の腕に抱きつき、腹立たしげに鼻を鳴らした。 「僕はママなんかいらない!帆乃香お姉ちゃんに僕のママになってほしい!」 佑弦のよく通る声が刃物のように胸へ突き刺さり、心に残っていた最後の未練まで断ち切った。 私は動画を最後まで見てから、ひと言だけ返信した。 【分かった】 そして家族用のメッセージグループを退会した。 もう一度、上司へ電話をかける。 「準備ができました。迎えをお願いします……」

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